ECTのご紹介 Introduction to ECT
電気化学療法(ECT)とは
電気化学療法(ECT)は、抗がん剤+電気パルス を組み合わせて腫瘍を攻撃する、局所のがん治療 です。
手術で取りきることが難しい部位や、できるだけ体への負担を抑えて治療したい場合に、選択肢のひとつになります。
「がん治療=強い副作用が心配」という印象をお持ちの方も多いと思いますが、ECTは少ない薬剤量でも腫瘍に効果を届けやすい という特徴があり、症例によっては治療後も普段通りに過ごせることが多い治療法です。
当院では最新のこの治療方法を日本でもいち早く取り入れております。治療をご希望される方は獣医師までご相談下さい。
ECTとは?
ECT(Electrochemotherapy)は、抗がん剤を投与した後に、腫瘍へ短い電気パルスを当てる治療です。
電気パルスによってがん細胞の膜が一時的に変化し、抗がん剤が腫瘍細胞の中へ入りやすくなる ことで、薬の効果を引き出します。
その結果、一般的な抗がん剤治療と比べて、投与量を抑えながら腫瘍を狙って治療 できる可能性があります。
「全身に広く効かせる」よりも、「腫瘍に集中的に作用させる」イメージに近い治療です。
図:抗がん剤投与→電気により細胞膜が変化→がん細胞に抗癌剤が取り込まれやすくなる
期待できる効果と特徴
ECTは、さまざまな体表腫瘍や口腔内腫瘍で効果が報告されています。
特に、局所の腫瘍を小さくする・増大を抑える(局所制御) という点で力を発揮しやすい治療です。
また、症例によっては処置後に腫瘍が壊死していき、かさぶた状になって縮小する経過をたどることもあります。見た目の変化が出ることがあるため、治療前に「起こりうる経過」を説明し、必要なケアをご案内します。
どんな腫瘍が対象?
ECTは基本的に、電極を当てられる場所(体表や体表に近い部位)の腫瘍が主な対象です。
対象になりやすい例
皮膚・皮下の腫瘍(肥満細胞腫、軟部組織肉腫 など)
口腔内の腫瘍(悪性黒色腫、扁平上皮癌 など)
鼻の腫瘍(専用の器具や方法で対応できる場合があります)
適応が難しいことがある例
内臓の深部にある腫瘍(電極が届きにくい)
骨へ強く浸潤している腫瘍
全身麻酔のリスクが高い状態(重い心疾患、高齢で全身状態が不安定 など)
「適応かどうか」は腫瘍の種類だけでなく、大きさ・位置・周囲への広がり方などでも変わります。診察と検査結果をもとに、適切な治療計画をご提案します。
世界的に見ても、手術よりもECT電気化学療法の方が適していると考えられる症例があり文献として発表されています。
例1) 獣医師の95%が、扁平上皮癌の治療において手術よりも電気凝固療法(ECT)の方が効果的であると考えている。(2020年12月にELECTROvet EZを使用する獣医師100名を対象に実施した調査)
例2) 肛門周囲腫瘍における1年後の完全奏効率87.9%。(Tozon, 2010)
例3) 猫の扁平上皮癌治療における3年後の完全奏効率は87.5%。(Tozon, 2014)
治療の流れ(目安)
ECTは多くの場合、日帰りで行える短時間の処置です。
1 術前準備・麻酔(または鎮静)
毛刈り・消毒を行い、麻酔下で安全に実施します。 電気パルスの刺激で筋肉が一瞬動くことがあるため、動かない状態で行うことが大切です。
2 抗がん剤の投与
腫瘍の種類や状況により、静脈注射や腫瘍内注射など投与方法を選択します。
3 電気パルスの照射
専用の電極を腫瘍に当て、腫瘍全体に行き渡るように照射します。 腫瘍が大きい場合は位置を変えながら複数回行います。
4 覚醒・経過観察
直後に患部の腫れや痛みが出ることがあるため、必要に応じて鎮痛剤などでコントロールします。
治療後は、数日〜1、2週間ほどで腫れやかさぶたが落ち着いていくことが多いです。
回数は何回くらい?
腫瘍の反応によって異なりますが、1回で大きく縮小するケースもあります。
一方で、腫瘍が大きい場合や一部が残る場合には、数週間(目安として3〜4週)あけて追加治療を検討します。
一般的には1〜3回程度で局所制御を目指すことが多く、必要があれば同様の手順で繰り返し治療できる点もECTの特徴です。
ECTのメリット
体への負担が比較的少ない(切開を伴わない治療になることが多い)
抗がん剤の量を抑えられる可能性があり、 全身の副作用が少ない傾向
手術が難しい部位や、 手術後に腫瘍が残る可能性があるケースで選択肢になる
状況に応じて、手術・放射線・薬物療法などと併用しやすい
注意点
全身麻酔が必要となる場合があります(安全に実施するため)
治療部位に腫れ・痛み・かさぶたが生じることがあります
腫瘍の種類や広がり方によっては、ECT単独では十分な結果が得られないこともあります。その場合は、他の治療法との組み合わせを含めて検討します
当院でのECT導入と使用機器
当院ではECTに対応するため、特徴の異なる2種類の機器を導入し、腫瘍の部位や状態に応じて使い分けています。
OnkoDisruptor® EXP-Vet(BioPulse社)
幅広い出力に対応し、腫瘍の状態に合わせて電極を選択できます。 安全機能(異常検知時の出力制御)も備えています。
ELECTROvet EZ V4.0(LEROY Biotech社)
標準的なプロトコルに沿った設計で、心拍に合わせて照射タイミングを制御する仕組みを搭載しています。
症例のご紹介
当院の所属するVCA Japan動物病院グループの長谷動物病院で実施した症例をご紹介させて頂きます。本症例は鼻に扁平上皮癌を発症した症例ですが、1度のECT処置で大幅に癌を縮小することができた例です。
※治療の画像はややショッキングな画像を含みますので、ご覧になりたい方のみクリックして御覧ください。
症例を見る
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【症例】 ヨークシャーテリア / 去勢雄 / 14歳9ヶ月齢
経過
2025.11.23
・鼻梁部左側に1×1cm大の表面に赤みを呈するドーム状腫瘤形成
・左右の上顎口唇粘膜に粘膜の増生を認める
・鼻梁部左側腫瘤はFNAにより”化膿性炎症および異形成を伴う扁平上皮の出現”との評価
2025.12.28
・組織生検+ECTを実施
・鼻梁部左側腫瘤は増大傾向
・新たに左上顎口唇に皮膚腫脹を認める
・ブレオマイシン20mg/㎡ i.v.し8分後に4本剣山で計12回通電
・病理組織診断で”扁平上皮癌”と診断
2026.01.11
・鼻梁部左側腫瘤および、口唇粘膜ともに縮小傾向
2026.02.08
・腫瘤の更なる縮小傾向を認める
ECT治療をご希望の方へ
ECT治療が適応になるかどうかは、腫瘍の種類・部位・大きさ・全身状態によって変わります。
治療のメリットだけでなく、注意点や他の治療選択肢も含めて比較しながら、最適な治療計画を一緒に考えていきます。
ご希望の方は診察時に、担当獣医師へお気軽にご相談ください。
よくある質問
Q1 痛みはありますか?
治療は全身麻酔(または鎮静)下で行うため、処置中に強い痛みを感じることはありません。治療後は、患部に腫れや痛みが出ることがありますが、多くは一時的です。必要に応じて鎮痛剤や消炎剤でコントロールします。
Q2 入院は必要ですか?
多くのケースで日帰りが可能です。ただし、腫瘍の部位・大きさ、麻酔の状態、治療後の痛みや出血の程度によっては、安全のため短期間の入院をご提案することがあります。
Q3 麻酔が心配です。高齢でも受けられますか?
ECTは安全に行うために、基本的に全身麻酔が必要です。高齢の子でも実施できる場合はありますが、心臓や腎臓などの状態によって麻酔リスクが変わります。事前に検査を行い、麻酔の安全性を評価した上で適応を判断します。
Q4 治療後、患部はどんな見た目になりますか?
治療後は、患部が腫れる、赤くなる、かさぶた状になるなどの変化が起こることがあります。腫瘍が壊死して縮小していく過程で見た目が変化することもあるため、経過中のケア方法(舐め防止、消毒、保護など)を個別にご案内します。
Q5 副作用はありますか?
ECTは、一般的な抗がん剤治療と比べて薬剤量を抑えられる可能性があるため、嘔吐や食欲低下などの全身副作用が出にくい傾向があります。ただし、体質や全身状態、薬剤の種類によっては体調変化が起こることもあるため、治療後は様子を見ながら必要に応じて対応します。
Q6 何回くらい治療が必要ですか?
腫瘍の種類・大きさ・反応によって異なります。1回で大きく縮小することもありますが、必要に応じて3〜4週間程度あけて追加を検討します。目安としては1〜3回程度で計画することが多いです。
Q7 どんな腫瘍でもECTができますか?
ECTは、基本的に電極が届く場所(皮膚・皮下・口の中など)の腫瘍が対象です。一方で、内臓の深部や骨へ強く浸潤している腫瘍などは適応が難しいことがあります。診察と検査結果をもとに適応を判断します。
Q8 手術や放射線治療の代わりになりますか?
症例によっては、ECTが手術の代替または補助療法として役立つことがあります。ただし、腫瘍のタイプや進行度によって最適な治療は異なるため、ECT単独にこだわらず、手術・放射線・薬物療法などを含めて最善の組み合わせをご提案します。
Q9 費用はどのくらいかかりますか?
費用は、腫瘍の大きさ・部位、必要な麻酔や検査、治療回数によって変わります。診察時にお見積りをご案内しますので、遠慮なくご相談ください。
参考文献・外部リンク